13話 母と伯母は3ヶ月でUターン。の巻

前回は法雅の2回目の結婚について書きました。

じつはこの前後…
いえ、東北から引っ越しをするあたりから伯母の言動がおかしくなっていました。このことは家族のみならず周囲が気づき始めていました。

その頃の伯母の行為は認知症が進んでのことなのか、突発的な精神の何かなのかわかりませんが、あきらかに今までとちがうものでした。

具体的にはこうです。

引っ越し直前のことでした。夜のお詣りが終わり、玄関先で檀家さんと談笑してました。

すると伯母が住居からこちらのほうへ顔を出し、大きい声で「殺されるー!」と叫んだのです。さすがに冷や汗をかきました。

そして母親に事情を聞くと、「どうやら精神が不安定なようです。突然くだものを投げたりします。このまま北海道に連れて行くと迷惑をかけるから、この町にいたほうがいいのでは」と言いましたが、「もう北海道に行くことは決まっているんだから、この町にいても仕方ないでしょ」と答え、北海道につれてきました。

しかし、北海道にきても変わりませんでした。

伯母はいつの間にか家族の中心のような振る舞いをしはじめ、食事の献立のことから家事のこと、お寺のことまで口を出すようになりました。

そして気に入らないと大声をだす顛末です。

本堂にいる檀家さんにまで聞こえるような声ですので、誰もが「なんだろ?」という反応です。

法雅は最初はなんとかこの状況をおさめようと努力しましたが、残念ながら解決しませんでした。

かわいそうなのは一緒についてきた妻です。
突然こんな爆弾のような伯母がいる家庭に連れてこられ、法雅は申し訳なく思いました。

2人でいつも六畳間にひっそりと隠れるという生活をしていました。

そういえば伯母は、両親と3人で奇妙な生活(7話)をしていたころ、気に触ることがあると突然大声を出し、時には母親の髪の毛をひっぱりまわしていたと、かつて父親が話しをしていました。

それを見かねた父が「出ていけー!」と言っていたそうです。

そんな癇癪(かんしゃく)もちの伯母と結局はズルズルと生活してきた両親。

お互いに歳をかさね、法雅と同居をはじめてからは、そういう伯母の言動はなかったので安心していました。

ですが、今回の引っ越しを契機にまた始まったようです。
法雅からすると、こういう伯母の言動は見たことがなかったので驚きました。

食事のたびにお互い険悪な雰囲気で食べることに抵抗を感じ、法雅たち夫婦は別々に食べたいと母親に伝えました。

母親は、家族は1カ所で食べるのが家族だからという考えでした。理想と現実との食い違いは明らかでした。

しかし、法雅も妻も母親も、このままではお寺の運営というもっとも根源的なことが立ちゆかなくなることは理解していました。

檀家さんが気持ちよくお詣りされるお寺にすることはもっとも基本的なことです。

伯母がいることで、このことができなくなっている以上は、伯母はお寺から離れるしか方法はありませんでした。

具体的にどうするのか。
法雅と妻と母親は話し合いました。

結果として、母親と伯母を妻の持ち家に住まわせることにしました。

そしてかかった光熱費等は父親が支払うというかたちで決まりました。

父親はそのとき頑として伯母との同居を拒みましたので、法雅のお寺に残ることになりました。

母親と伯母はわずか3ヶ月で東北の町にUターンしたのです。

伯母が去ったお寺は静かになり、本来の穏やかな雰囲気になりました。

法雅夫婦は晴れて八畳間にうつり、ようやく40代夫婦らしい落ち着いた生活が送れるようになりました。

家庭が落ち着けば、自然とお寺のことにエネルギーが向きます。

いよいよ1年がかりの工事が始まろうとしています。

(14話 1年間工事にあけくれるにつづく)

法雅の浮き沈みアイキャッチ画像
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