14話 1年間工事にあけくれる。の巻

北海道のお寺への転勤は、きっかけは告発事件(9話)によるものでしたが、表向きの理由は先代の住職が老齢により隠居したため、かわりに法雅がそのお寺の住職を勤めることになったものです。

法雅と檀家さんとの初めての顔合わせの時、総代さんが「住職。檀家用のトイレを直してくれませんか?」と頼んできました。

あとで建物を調査してわかったものですが、先代の住職は大変な倹約家だったため、建物や設備のメンテナンスにほとんどお金をかけてこなかったのです。

ですので、水回りすべてと暖房機などの機械類、設備関係すべて老朽化していました。

とくにトイレは水は出ないので、檀家さんは参詣前にどこかで手洗いをすませて参詣するという状態でした。

暖房機などの備品もすべて30年クラスでいつ壊れるかわかりません。

これから住み始める法雅家族としては、いつ壊れるかわからない備品との共同生活は不安を抱えたまま生活するのと等しく、悩みの種でした。

しかし、「捨てる神あれば拾う神あり」です。2つの幸運がありました。

1つは、前住職は倹約家でしたのでお寺に貯金を残してくれたことでした。

さすがにお詣りする檀家さんに迷惑をかけるお寺ではいけません。
残してくれた貯金の一部を水回りの工事につかうことにしました。

総代さんたちも喜んで印鑑を押してくれました。

こうして檀家さん用のトイレ、住居用のトイレと風呂の改修工事が始まりました。

2つは、北海道電力からの補償があったことです。

ちょうど法雅が出張していた真夜中、妻が寝ていたとき部屋の照明がパッパッと点滅したそうです。

驚いて起きたら、そのまま電気が停電。
妻と父親は懐中電灯をもちながら何が起きたのかと話ししていたら、北海道電力の人がお寺に来たそうです。

停電の理由をいうには「強風によって電気がショートし停電してしまった。ショートした時、電化製品に一時的に200ボルトが流れてしまったため、壊れてしまった電化製品もあるかもしれない。壊れた電化製品については北海道電力で補償します」という内容だったそうです。

そんなことがあるのかと、帰宅した法雅は驚きました。

さっそく壊れた電化製品を調べたところ、古い暖房機はほとんど、そして住宅の冷蔵庫、一部の照明器具が壊れていました。
一瞬のショートでこの威力です。

でも、これが「ケガの功名」というのでしょうか。

おかげで古い暖房機や家電が最新式になり、買い換えを検討していた悩みが消えました。

こうして前半戦の工事は、水回りの工事と備品の交換を主におこないました。

その間、法雅は妻と一緒に前住職が残していった荷物や食器などの備品を、使う物、使わない物に区別し、使わない物は清掃センターへ持っていく作業をくり返しました。

人は40年も同じ所に住むと荷物の量が増えるものだと痛感しました。

努力の甲斐あって、お寺のなかがスッキリとし檀家さんも喜びました。

お寺のなかがキレイになると今度気になるのは外側です。
とくに外壁の汚さと庭木の多さが気になります。

ここは一気にやってしまおうと、あらためて貯金の一部を使うべく予算を立て、総代さんに印鑑をいただきました。

なるべく予算をおさえるよう、自分たちでできることは自分たちでやる作戦です。

外壁の塗装は近くの業者から足場を借りてきて、檀家さんたちが設置し、みんなで塗りました。

庭木が多すぎる問題も、みんなで余計な木を伐採して半分ほどに減らしました。

さすがに素人ではできない屋根の張り替えは業者にお願いしました。

こうして後半戦の工事は、外側全体の整備をおこない誰がみてもきれいなお寺になりました。

およそ1年間かけて工事と設備交換、掃除や作業をおこない、すべての事業を完成したことを法要で報告して終えました。

檀家さんにとっても良い思い出になったようです。

さて作業の終盤、早朝に父親が倒れました。

つづきは次回にします。

(15話 父親の入院と別れにつづく)

法雅の浮き沈みアイキャッチ画像
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